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1993年ウイグルひとり旅

1993年ウイグルひとり旅

中国語学科専攻だった私は、大学が長期休みに入るたびに中国へ放浪の旅に出かけていました。
中国は広い!
面積が日本の25倍ありますから。
辺境には一般の人が抱く中国のイメージとは全く異なる世界が広がっています。

大学3回生の夏休みに天津、洛陽、西安、そして新疆ウイグル自治区のウルムチとトルファンを40日間ひとり旅をしました。
色んな人に出逢い、たくさんの事を考え、後の私の人生にとって大きな転機となる旅でした。
自分のための記録として、1993年に旅した中国とウイグルの風景をここに残しておこうと思います。
(※当時の写真を携帯で撮影したので画像はあまりきれいではありません。)

目次

新疆ウイグル自治区ってどこ?

中国は31の省・直轄市・自治区から成り立っていますが、中国西北部に位置する新疆ウイグル自治区は中国の省・自治区の中で最大。
面積は165万平方キロメートルもありますが、その内約4分の1は砂漠です。

新疆ウイグル自治区はモンゴル、カザフスタン、キルギス、パキスタンなど8カ国と国境を接しており、まさに民族の交差点、異文化の交流点。人口1925万人の内、4割漢民族、4割がイスラム教を信仰しているウイグル族、残り2割がカザフ族など様々な民族から構成され、計47の民族が暮らしています。

新疆ウイグル自治区の地図


地図でこうして見てみると、めちゃくちゃ広いですね。最大都市はウルムチ(烏魯木斉)市。

ウイグルで栽培される新疆綿は、スーピマ、ギザと並ぶ世界三大高級綿のひとつです。また良質なカシミヤも有名です。
現在スウェーデンのアパレルメーカーH&Mなどが人権問題を理由に新疆綿の使用を停止しています。
その他、ブドウ、ハミ瓜、イチジク、ザクロなども特産品です。

出発~燕京号で神戸から天津へ

燕京号というフェリーで神戸から天津へ。
当時は中国行きのエアチケがまだまだ高くて(北京往復で14万くらい、上海往復でも12万円くらいした記憶)、バックパッカーは船で行く人が多かったです。
上海行きフェリーが鑑真号、天津行きフェリーが燕京号です。

客室のランクによって値段は異なりましたが、バックパッカーはもちろん最低ランクの和室雑魚寝か大部屋二段ベッドの二択。
当時片道約20000円ちょっとでした。

神戸港(神戸ポートターミナル)と天津港(客船ターミナル)を結ぶ国際定期フェリーとして1990年3月21日に就航した燕京号ですが、2012年8月21日に運航を終了しました。残念。
まあエアチケが随分安くなりましたからね。

フェリーは安いのは良いけれど2泊3日もかかります。
お金はないけど時間ならたっぷりある私にはぴったりでした。

ちなみに鑑真号は新鑑真として今も健在で、大阪・神戸から上海に行けます。
のんびり船旅も良いですよ!!

天津には「狗不理包子」という老舗肉まん店があり、当時大学で使っていた教科書にも出てくるくらい有名だったので行ってきました。今日本の池袋にどうも支店があるぽい???

天津に来た目的は肉まん。これだけ。
期待度が高すぎたのか、味はまあまあ普通に美味しかった感じ。

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洛陽へ~龍門石窟・白馬寺・白居易のお墓・少林寺をめぐる

この旅行は、大学の試験が始まるまでシルクロードを行ける所まで進もうというノープランシルクロードの旅。
天津からシルクロードの洛陽→西安→新疆ウイグルに行くという計画です。
できれば敦煌やホータン、カシュガルにも行きたい。
更に可能ならばパキ超えもしたい。
(当時ウイグルに行くバックパッカーは新疆のカシュガルからパキスタンに行く通称「パキ超え」目当ての人が多かった)

と思っていたのに、洛陽で西安行きの電車のチケットが買えないまま5日間足止めを食らう。

洛陽には歴史的建造物がたくさんあります。
龍門石窟はユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録されています。

洛陽龍門石窟寺院

それにしても、こんな硬い岩よく掘ったな。

それから白馬寺。

洛陽白馬寺


文献で確認できる中国最古の仏教寺院である「白馬寺」。
教科書をめぐる旅ではないけれど、白馬寺も当時の大学の教科書に登場してた。

↓「唐少傳白公之墓」。
唐代中期の詩人白居易のお墓。

白居易のお墓


白居易と言えば楊貴妃のエピソードを基にした『長恨歌(ちょうごんか)』という長編の漢詩があります。

私が若かりしJKだった頃の古文のM先生の授業が未だに忘れることができません。
M先生は高校3年生の1年間の古文の授業の前半を『長恨歌』、後半を『源氏物語』で費やしたんですよね。
今の高校でそんな事したら「大学受験はどうするんだ!」という保護者のクレームが入りそうな気もするけど。

定年前最後の年だったM先生。
足が少し不自由なので、いつも男子が先生用の椅子をどこからか調達してきて、手を取りエスコートするところから授業が始まります。
クラスに台湾出身の生徒がおり、長恨歌を今の中国語で音読してみんなに聞かせる所から長恨歌の授業は始まりました。
今と昔の言語は違うけれど、押韻が今の中国語の発音でも分かるんだと教わりました。

教科書は一切使わず、先生が準備した原文のプリントだけが唯一の教材。
漢文の授業というよりも、当時の文学のみならず歴史的背景や文化的背景など色んな話をしてくださいました。
そんなゆったりした『長恨歌』の授業が半年続き、引き続き後半は『源氏物語』へと突入。

源氏物語の冒頭の桐壷の巻で桐壷の更衣の死を悲しむ帝の姿は、『長恨歌』での楊貴妃の死を悲しむ玄宗皇帝の姿に重ね合わせています。『枕草子』や『徒然草』にも白居易の漢詩文が引用されています。
白居易は当時の日本の文学に多大な影響を与えているのです。

兵庫県に灘高校という難易度トップクラスの男子高校があります。
その灘高で50年間国語を教えた教師、橋本武先生の『銀の匙』の授業に通じる気がします。今になって思えばですけど。

大学受験のためではなく本物の授業だった気がします。
未だに忘れられず当時の授業風景が心に刻み込まれています。懐かしい思い出。

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あと洛陽に来たからには絶対行きたい!と思っていたのが少林寺。
カンフー映画が大好きな人なら一度は行きたいところですよね。

洛陽少林寺


日本にも少林寺拳法という武道がありますが、中国のカンフーとは別物です。
が、小学校の頃カンフー映画で触発されたクラスの男子たちが少林寺拳法の教室に通い始めたのを覚えています。

少林寺搭林


↑ 塔林。
大小様々な搭がたてられていますが歴代僧侶のお墓です。

西安に行く電車のチケットがなかなか買えなかった私ですが、いきつけの食堂のおっちゃんが一緒に買いに行ってくれたら、あっさり買えました。何だかな。

西安、そして新疆ウイグルのウルムチ(烏魯木斉)へ。

西安
西安

西安の大雁塔。

カラーひよこ

道端では真っ赤に染められたカラーひよこが売られていた。
昭和の時代、日本でも縁日で売られていたカラーひよこ。
元々は鶏卵用のオスのひよこを愛玩用として販売する為に子供だましの色付けをしたものらしいけれど、動物愛護の観点からさすがに今では見られない。

西安の観光はそこそこにして、硬臥(安い方の寝台車)のチケットを購入し新疆ウイグルのウルムチ(烏魯木斉)へ向かう。


電車からの風景。
西安からウルムチまで2泊3日で到着すると思っていたのに、時刻表を1ページ飛ばして見ていたため、実は3泊4日かかると3日目に気づく。どうも速くない電車のチケットを間違えて買っちゃったみたい。

食料も尽きたし、電車の中で販売されるお弁当は絶対に手をつけたくないので何も食べないでいたら、隣の席の夫婦がひまわりの種やカボチャの種やあれやこれやを分け与えてくれた。
話を聞くと夫婦は人民解放軍でこれから帰省するところらしい。
ウルムチ駅に着いたらお迎えの車が来るので、その車でホテルまで送ってくれるという。

ウルムチ

宿泊するのは「烏魯木斉賓館」というホテルのドミトリー。
大広間に30人ほど詰め込まれて雑魚寝状態なんだけど、当時1泊15元(約200円くらい)だったのでバックパッカーのたまり場になっていた。
安い上に情報収集に最高の環境なので、ドミトリーに泊まる事がほとんどだった。
車で送ってくれた夫婦はホテルも一緒に見に行ってくれ、とても心配そうにしてくれた。

↓ 烏魯木斉賓館のドミトリーはこんな感じ。
ウルムチ行きの電車の中で見かけた香港人大学生も同じ部屋にいた。彼らは香港で元気にしてるのかな。

烏魯木斉賓館


↓ウルムチには新疆ウイグル自治区博物館があります。
今はもっと近代的な建物に建て替えられているぽい。

シルクロード関連の展示や遊牧民の暮らしなど、入場料無料で見れる素晴らしい博物館です。

以前、日本各地で日中国交正常化20周年記念展「楼蘭王国と悠久の美女」が開催されました。
NHKの番組「シルクロード」で一躍有名になったタクラマカン砂漠で発掘されたミイラ「楼蘭の美女」が展示され、私は京都市美術館に見に行ったのですが、入場の待ち時間が長すぎて結局見れずに帰ったんです。
でも、ウルムチのこの博物館に行けば待ち時間無しでじっくり見れるのでオススメです。
私が訪れた時はミイラ室に一人だったのでとても怖かったです。
足の爪やまつ毛まで綺麗に残っているのに驚かされます。

ウルムチからトルファンへ

ちょうどこの時期(8月末)中部のトルファン(吐魯番)ではブドウ祭りが開催されワインが飲み放題らしいという噂を聞きトルファンへ。

トルファン

トルファンとはウイグル語で「人と物が豊かな地域」という意味。

トルファンには6つの全国重点文物保護単位(交河故城、高昌古城、ベゼクリク克千仏洞、蘇公塔、アスターナ古墓群、台蔵塔)があり、自治区級重点文物保護単位も27箇所あります。
地名通り見どころ豊かで、火焔山、アイディン湖、葡萄溝、トルファン・カレーズ楽園等があります。

トルファンは異名を「火州」と言います。
ウルムチから車で3時間ほどですが気候はウルムチと全く異なり、夏は日中は40℃を余裕で越しますので旅行に行かれる方は要注意です。

ウルムチは都会でしたが、1993年のトルファンはウイグルの風景がそのままって感じ。中国語も通じません。
今ほど漢民族の流入も多くはなかったのかも。

たまたま偶然かもしれないけれど、この頃ウイグルで出会った日本人はほぼひとり旅でした。
食堂に入ると中国は基本的に大皿料理なので、ひとり旅はなかなか不便です。
一つのおかずをひたすら食べるはめになるので、ひとり旅の者同志が集まって食事に行くので毎晩宴会続きでした。


写真に写っているのは、
中学校の先生。
長年勤めていたデパートを退職して自分探しの旅に来た方。
遺跡の研究のため国費でやってきた某大学の院生さん。
ひとり旅はいろんな人に出逢えるので好き。

↓西遊記ファンの聖地「火焔山」。
写真ではわかりにくいですが、見渡す限り植物がまったくない赤い山です。灼熱です。

ウイグルトルファン火焔山

↓ベゼクリク千仏洞

ベゼクリク千仏洞
ベゼクリク千仏洞

火焔山の下にある峡谷の絶壁の上に位置するベゼクリク千仏洞。一見の価値ありです。

↓交河故城

交河故城

↓ロバ車

トルファン1993
トルファンロバ車


当時のトルファンではロバ車がメジャーな交通手段だったけど、今も走っているのかな。

↓ブドウ棚

トルファンブドウ棚


トルファンはブドウの栽培で有名です。緑色の干しブドウは最高に美味しいの。
日中は40℃を超すトルファンも、ブドウ棚の下はすごく涼しい。

↓緑色のモスク。激しく綺麗。ウイグル人はムスリム。

トルファンのモスク

↓ウイグルの代表的な主食の一つ、ナン。これ本当絶品。
釜戸で焼く羊肉と玉ねぎをくるんだサムサもあるんだけど、これも最高だった。
ウイグルはご飯がとても美味しかったです。

トルファン

↓カーペット売りのお姉さん。ウールの緞通だったと思う。

トルファンカーペット

↓マーケット。旅行で一番楽しいのってマーケット巡りじゃないですか?

トルファンマーケット

↓散髪屋さん?

トルファン散髪



↓八百屋のおじさん

↓カメラで写してもらったことがないから写真撮影してほしい、と言われた。
何しろ言葉が通じず、身振り手振りでそう言われたと思う。
写真の子ども達、大きくなって無事に過ごしてるといいなあ。

まとめ

大学の夏休みがもうすぐ終わりそうだったのでトルファンからウルムチへ大急ぎで戻り空路で北京へ。
当時北京に留学していた彼(現夫)を訪ね北京観光をして帰りました。大学の試験にはギリセーフで間に合いました(*^^)v

40日間でフェリー代、帰りのエアチケ全部ひっくるめて費用が18万円。
当時の中国は物価も随分安かったです。
なにぶんノープランだったので、40日もかけた割りにはウイグル各地を回れませんでした。
せめてカシュガルには行きたかったな。

1990年にウイグル人のデモに対して武装警察が発砲、射殺するバリン郷事件が発生。
その後反政府テロが相次ぎ、1997年には大規模なデモが発生し軍隊とデモ隊が衝突、多くの死傷者が出たグルジャ事件が発生しています。
そしてウイグルの今現在の状況はご存じの通りです。
ウイグルの人々が無事に過ごしていてほしいと心から願います。

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